大津地方裁判所 昭和38年(行)1号 判決 1966年5月25日
原告 木村定五郎 外八名
被告 近江八幡市
訴訟代理人 川村俊雄 外三名
主文
原告らの請求はいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事 実 <省略>
理由
一、まず原告木村省三郎所有の別紙目録記載番号6の土地についての仮換地指定処分に関する訴につき、訴の利益がないとの被告の本案前の抗弁につき判断する。被告が右土地につき、右番号6のような仮換地指定処分をしたのに重ねて同土地につき同目録記載番号9のような仮換地指定処分(その効力発生年月日は除く)をしたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨を総合すれば、右番号6の処分には具体的な仮換地の定めのない瑕疵が存するため被告においてあらためて右9の処分をしたものであつて、実質上後の処分をもつて前の処分を取消したものであることが認められる。そして右処分の取消により、前記番号6の処分は当初から効力を有していなかつたことになるものと解されるところ、かかる場合には、特段の事情についての主張立証のない本件では、さらに判決によりその処分の無効確認を求める法律上の利益はないというべきである。よつてこの点に関する同原告の請求は訴の利益を欠くもので爾余の点を判断するまでもなく失当である。
二、別紙目録記載番号6を除く爾余の各土地に関する原告ら請求原因一、の事実(ただし同目録記載番号7ないし9の仮換地指定効力発生の日につき、被告は昭和三七年一一月二〇日と争うが、この点は暫く措く)については当事者間に争いがないので、以下順次原告らの主張を判断する。
(一) 施行規程の公布について
<証拠省略>を総合すると、本件土地区画整理事業(本件事業)の施行規程は「近江八幡都市計画近江八幡駅前土地区画整理事業施行規程に関する条例」として近江八幡市議会で可決されたのち、被告主張のとおり近江八幡市公告式条例所定の手続をふみ昭和三五年七月六日適法に公布されていることが認められ、他に右認定を動かす証拠はないから、この点についての原告らの主張は採用できない。
(二) 事業計画の縦覧について
<証拠省略>を総合すれは、被告は、本件事業の事業計画については法施行令第三条及び前記近江八幡市公告式条例に基づき昭和三五年八月二日縦覧の期間、時間、場所について公告し、同月五日から二〇日までの間近江八幡市役所施設課及び滋賀県庁監理部都計課において公衆の縦覧に供したこと、その他関係地区の事務嘱託員(区長)等に右公告の内容を通知し一般への周知方を依頼したこと、右期間中に原告木村省三郎ら四〇余名が現実に縦覧をしていることが認められ、右認定に反する<証拠省略>は措信できず他に右認定を動かす証拠はないから、この点に関する原告らの主張を採用できない。
(三) 換地計画を欠く点について
本件事業の換地計画がいまだ完成していないことは当事者間に争いがない。ところで法第九八条第一項は、仮換地の指定をなしうる場合として「土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設若しくは変更に係る工事のため必要がある場合」(前段の場合)と、「換地計画に基き換地処分を行うため必要がある場合」(後段の場合)とを定めている。後段の場合は、換地計画において定められている換地の位置、範囲を仮に定めるものであるのに対し前段の場合は、土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設変更にかかる工事施行のために一時従前の土地の使用収益を停止させるかわりにこれに照応する他の土地を仮に使用収益させるものであるから、後段の場合は換地計画の存在を前提とするけれども前段の場合は換地計画の有無を問わないものというべきである。そして換地計画がなく前段の仮換地指定を行う場合でも、施行者は法に定めた換地計画の決定の基準を考慮してこれをなすべく(法第九八条第二項)、この場合でも終局的には換地処分は換地計画に基づくことを要するし、利害関係者は右換地計画につき意見書を提出することができる(法第八八条第三項)のであるから、右のような仮換地指定は換地計画のある場合に比して特に利害関係者に実質的な不利益を与えるものとは解されない。
よつて本件各仮換地指定処分について工事のため必要があるかどうかにつき考える。<証拠省略>を総合すると、本件事業の施行地区、設計、目的等の概要は被告主張二(三)(2) のとおり国鉄近江八幡駅前に被告主張のような都市計画街路を幹線路線として商店及び住宅の建設に適するように縦横の区画街路あるいは用排水路を新設しかつ公園を配して市街地を造成しようとするもので、原告らの所有あるいは借地権を有する本件の土地はいずれも右地内にあつて、右造成工事のためには被告主張二(三)(3) のように原告らの所有あるいは借地権を有する右各土地の使用収益権能を他に移すため仮換地を指定する必要があること、本件事業の実施により生ずる換地の方針は現地換地を原則とし換地による減歩率は平均約二八%であるが、本件各仮換地指定は右換地の基準となるべき近江八幡駅前土地区画整理事業土地評価基準換地細則その他法の定める基準を考慮してなされているので、将来定めらるべき換地計画による換地と本件処分により指定された仮換地とは、所有者借地権者につき変動が生ずることは別として土地そのものは原則として一致するよう配慮されていることがそれぞれ認められ、他に以上認定を動かす証拠はないから、換地計画を欠く本件各仮換地指定処分にはなんら違法な点はないものというべく、これを違法とする原告らの主張も採用できない。
(四) 土地区画整理審議会(審議会)に対する諮問の方法について
法第三条第三項により市町村が土地区画整理事業を施行する場合においては、仮換地指定を行うには審議会の意見を聞かなければならない(法第九八条第三項)こととされている。これは右施行者が個人あるいは組合の場合と異なり、その施行が地区内の土地について権利を有するものの発意によるものではないので、仮換地指定処分についてこれら権利者の意見を反映させ、その権利の保護を図ろうとするもので、審議会の性格は右処分をなすについての諮問機関と解される。よつて以上の諮問をなすには、施行地区内の権利者の意見を反映させるに必要な資料を提供しなければならないものというべきである。
よつて別紙目録記載番号1ないし5、7ないし10の各仮換地指定処分について、被告が審議会に対してなした諮問の方法が適法であつたか否かにつき考える。被告が昭和三七年六月二九日及び同年一一月二日の両日に右処分について審議会に諮問をするに当り、一覧表等により個々の土地と仮換地とを具体的に示さなかつたことは当事者間に争いがない、しかし<証拠省略>を総合すると、右両度の審議会において、被告は原告木村定五郎、同木村省三郎、同小西誠三の右各所有地を含む本件事業の施行地区の現況図、本件事業の設計図などの図面を示しかつさきに認定した仮換地指定の必要性とその基準についても資料を提供して詳細な説明を行つて諮問したこと、右現況図には一筆毎の地番が、設計図には造成すべき公園、街路番号や街区番号が記入され両図を彼比対照することによつて現地換地を方針としていたので一筆毎の従前の土地と仮換地との関連性が推知しうるものであつたことがそれぞれ認められるのであつて、証人橋光次の証言中以上認定に反する部分は措信できず、他に右認定に反する証拠はない。
以上認定のように、被告が審議会に対し図面により個々の従前の土地と仮換地を示しかつ減歩率その他の仮換地指定の詳細な基準を明らかにしたことによつて、諮問に必要な資料を提供したものというに妨げない。その際個々の所有者毎に従前の土地と仮換地とを一覧表等により明示することはより望ましいことではあるが本件において、これを欠いたことのみで直ちに原告らのいうごとく諮問の方法が違法無効となるものとは解されない。よつてこの点に関する前記原告らの主張も採用できない。
三、以上のように原告らの請求はいずれも失当であるからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 畑健次 首藤武兵 北沢和範)
目録<省略>